1970年代までの著書

この時代は、東大の学生時代からフランス留学をへて、西洋美術館時代(1970年から1973年)、東北大学に就職する時代の仕事が中心である。
文芸評論家・江藤淳氏のすすめで古山高麗雄編集長の『季刊藝術』に文芸評論を始めた。 しかしストラスブール大学でのフランス語で書いたドクター論文の最高点による審査は、西洋の学問のレベルを体得させ、将来の学問の自信になった。
吉川逸治東大教授の推薦で、フィレンツェ留学を1970年に果たし、レオナルド・ダ・ヴィンチの研究を始めた。 ラ・トゥール、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロの連載を『季刊藝術』で次々と行い、それらが書物となって出版された。
一方で吉川教授の監修にかかる美術全集に上記の作家・作品論を書くことが多かった。 まだ文芸と美術史との間を往復していたが、次第にイタリア・ルネッサンスに深入りしていった。


  1. L’oeuvre de Georges de La Tour.

    1969年(昭和44年)6月 Université de Strasbourg (dactolographie) 188p, 200 illustrations.

    17世紀のフランスの画家ラ・トゥールについて、様式とその図像から分析し、当時ほとんど未解明であった『聖セバスティアヌス』図をはじめ、『聖ヒエロニムス』図等の年代設定を行い、とくにその作風形成の時代を検討して後の研究に大きな影響を与えた。 その後1972年にパリで大展覧会が行われた際のカタログ、その後のこの画家のモノグラフに基本文献として掲載され、引用も多くされている。

  2. 邦訳『ラ・トゥール 夜の画家の作品世界』

    邦訳『ラ・トゥール 夜の画家の作品世界』

    造形社 1972年(昭和47年)246頁、図版56頁(付仏文レジュメ)

  3. 『冬の闇 夜の画家ラ・トゥールとの対話』

    新潮選書 1972年(昭和47年)214頁

    ジョルジュ・ドゥ・ラ・トゥールについての文学的エッセイ。 雑誌『季刊藝術』に連載されたものを一冊に収録。

  4. 『ミケランジェロ』(世界美術全集6) 吉川逸治との共著

    『ミケランジェロ』(世界美術全集6) 吉川逸治との共著

    集英社 1975年(昭和50年)120頁

    ミケランジェロの全作品を分析しながら、その思想的、形象的意義を跡づけたもの。 代表作システィナ礼拝堂天井画に四大元素などの擬人像があることの指摘や、レオナルド・ダ・ヴィンチの影響があることが分析されている。 『ピエタ』像の系譜をたどり、最後の『ロンダニーニのピエタ』にレオナルド・ダ・ヴィンチの愛の二重人物像の形象があることを述べている。 全作品カタログを制作し、1点1点を解説した。

  5. 『文学の転身』

    泰流社 1976年(昭和51年)254頁

    「日本文学とは何か」「西洋文学とは何か」という大きな主題のエッセイだけでなく、漱石論・江藤淳論・三島論などを含む著者の1975年(昭和50年)までの文学評論を集めたもの。

  6. 『微笑の構造 レオナルド・ダ・ヴィンチの二重人物像』

    小学館 1977年(昭和52年)205頁

    1970年にフィレンツェに私費留学した際、ウフィツィ美術館に通い、レオナルド・ダ・ヴィンチの『三王礼拝図』の中にすべての人物がカップルで二人ずつ描かれているのを発見し、それが当時のネオ・プラトニスムの影響であることを解明した。 その論文は学会誌に掲載され、英文に翻訳されてケネス・クラークをはじめ研究者に大きな反響を呼んだ。 その論文を中心に『モナ・リザ』に関する論考を集め、一冊の本にしたもの。

  7. 『レオナルド・ダ・ヴィンチ』(世界美術全集5) 下村寅太郎との共著(全作品解説、カタログを執筆)

    『微笑の構造 レオナルド・ダ・ヴィンチの二重人物像』

    集英社 1977年(昭和52年)124頁

    レオナルド・ダ・ヴィンチの全作品を分析し、そこに通底する思想を探ったもので、初期の『三王礼拝』図の図像的な解明から、晩年の『大洪水』の構想まで、巨匠の一貫した形象的表現を追求している。 とくに全作品のカタログとして、弟子との関係に留意したアトリビューションを行っている。 また、『モナ・リザ』の分析はこれが代表作であるだけに、モデルやその歴史的背景を追い、国際的な新解釈として評価されている。

  8. 『レオナルド・ダ・ヴィンチ』(世界の素描1)

    講談社 1977年(昭和52年)大版32頁

    レオナルドの素描は900点に及び、彼の作品の重要な部分を占めるが、絵画の準用のもの・科学建築関係のものがある。 しかし、それだけで独立した作品が多く、それらを分析すると意外に「グロテスク」のテーマと「大洪水」のテーマが主なものとなっていることがわかる。 彼が絵画という特性を認識したうえで、「醜さ」と「恐ろしさ」を如何に表現するかに腐心しているかがこれらの素描からわかる。

  9. 『レオナルド・ダ・ヴィンチ 芸術と生涯』

    新潮社 1978年(昭和53年)320頁、図版140(付英文レジュメ)

    講談社学術文庫版 1992年(平成4年)426頁(解説・杉浦明平)
    レオナルド・ダ・ヴィンチの二重人物像の発見を機に、巨匠の研究を様々な観点から行い、『アンギアリの戦い』・『岩窟の聖母』・『聖アンナ画稿』・シャンボール宮などの新発見を加えながら、その全作品とその生涯を書いたもの。 彼の絵画論にある、芸術に対する考察・その主題の分析を行い、レオナルドの全く新しい作家論を展開している。 これはルネサンス研究家杉浦明平により同年のベストスリーの書物と評価され、氏の解説が加えられて1992年に講談社学術文庫により再版された。

  10. イタリア語訳 Leonardo da Vinci, la sua arte e la sua vita,

    tradotto da Toshio Tanaka e Mario Zallio, Suwa, 1983. 292p. 141 illustrations.

  11. 『若き日のミケランジェロ』

    新潮社 1979年(昭和54年)212頁、図版80(付英文レジュメ)

    『ミケランジェロ』

    講談社学術文庫版 1991年(平成3年)320頁(解説・中江彬)

    1975年に東京でミケランジェロ生誕500年記念学会が開かれた際、筆者はシスティナ礼拝堂天井画の分析を行い、天井画中央の5組ある四裸体像が、四大元素・四気質・四つの時などの擬人像であることを解明した。 また、ミケランジェロの青年期の作品を検討し、そこに父・母へのコンプレックスが反映していることを指摘し、その芸術の中にまたレオナルド・ダ・ヴィンチとの対決もあったことも分析した。 この書物は1991年に中江彬の解説のもとに講談社学術文庫により再版された。