世界時評1 トランプ現象の真意とは?

田中英道 ※平成28年4月12日掲載

今、アメリカの大統領選挙の注目すべきことは、トランプ候補の人気です。トランプが勝つ可能性が非常に出てきたということなのですが、トランプが候補者としてかなり乱暴なことを言っている。イスラムをアメリカに入れないとか、メキシコの移民を入れないとか。それから日本あるいは中国・韓国などを金食い虫みたいに、アメリカの国益を脅かしている存在であり、日本が核兵器を持って、アメリカの防衛負担を減らすべきだ、と、素人ではないと、言えないことまで公言しています。外交のことを全く知らないという印象を与えるのですが、逆にこういう人が人気が出ている現象を注目しなければなりません。クリントン候補にしても、オバマ大統領、あるいはその前のロムニー候補など色々なアメリカ指導者たちが常識のようにグローバリゼーションの立場に立って、そういう事が大統領になるための態度となっている。ところが、トランプは全くそうではない、あきらかに自国一辺倒の、床屋談義みたいなものを平気で出している、これは一体、何なのかということです。
小国の大統領、首相の言葉なら気にする必要はないのですが、冷戦終結以後、大国はアメリカ一国になっている。中国やロシアも大国ずらをしてきたとはいえ、世界を関与する器ではない。そういう一極集中のアメリカで、大統領候補にこういう人が出てくるということが、かれらがこれまでの役割を抛棄したくてしょうがないということです。基本的には我々があまりにもアメリカに、その指導性を仰いでいたということと、国連があそこにあるために世界を指導していくという錯覚を持ってしまっていた。それから、アメリカは移民の国ですから、たくさんの世界からの移民が来ているために、あたかも世界の意見を、集約しているように思わされてきた。しかし現在の政治・経済で基本となっているグローバリゼーションに対し、トランプは「そうではない、アメリカだけを考えろ。アメリカだけを大国にしろ」というナショナリズムを出して来たのです。
彼は不動産王と呼ばれて、豊かな金持ちだけの政治家という風に思わせているのですけれども、意外に一般にも受け、ヒスパニックあるいは黒人にまで支持する人も出てきている。これは一体何なのかということです。このことがある意味で世界情勢を反映しています。それは安倍首相の動向にも関係していることです。
先ず言えることは、世界の情勢が一国主義、つまり〈ナショナリズム〉に向かっているということです。今までのグローバリゼーションの流れの中で、例えば EUが共同体になり、多くの国家を統合してしました。そしてユーロというお金で20数か国を経済的に統一してしまうという事をやってきたことは周知の通りです。それが20世紀後半の世界の趨勢だったのですけれども、今イギリスが脱退するかどうかという国民投票もかけています。つまり、各国が自分の国の方針で、お金をある意味で操作する、あるいは各国にあった政策をしようとすることが、多くの点でできなくなっていることなのです。ヨーロッパ各国がなにか全体的に縛られ、とくにドイツ支配に自分たちの国を委ねるような事態になっています。 EUそのものの制度の中でそれぞれの国の立場、国の状況というものを主張できなくなっていくということに苛立ちを感じ始めているのです。
今、移民が非常に多く入ってきている。この移民というのも実を言うとグローバリゼーションの一角です。つまり世界はみな一国、あるいはひとつのナショナリズムではもたないように、多文化主義にする、という事を20世紀では心がけてきた。それの象徴としての移民政策だったから、どんどん入れろ、入れてもいいと言ってきた。本来はフランスやドイツそれぞれの国のナショナリズムが、その土地その国の歴史に基づく、政治や経済の運営が出来なくなっている。野放図に異質な移民を入れることによって、国内に不協和音が限界に達しているのです。異質なものを平気で受け入れていいのかということが深刻な問題になっています。現状ではそれぞれの国が、移民というのは少数派として扱っていますけれども、そうはいかないという状況が出てきた。特に移民が急速に入ってくるということによって、ナショナリズムが瓦解していくような感覚を各国民がもつようになったのです。
だからこそトランプのような候補者が出てくる。各国のナショナリズム政党が躍進するようなことが出てきています。結局、今のEUというのはグロ−バリゼーションで作られた共同体です。さらにアジアも中国が、そういう事をやろうとしているわけで、共同出資の新しい銀行を作ろうとしている。グローバリゼーションというものを、中国がやり始めているというのは面白い現象です。それに対する日本は、唯一彼らのグローバリゼーションとは別の動きをしている。独特の政治制度を持っていて、あらゆる考え方あらゆる行動の仕方が全く異なっている。皆さんはそういうことがないようにと戦後教えられてきて、英語を学びなさい、権利を主張しなさい、個人を主張しなさいと言われてきた。しかしそうはなっていないのが、日本なのです。グローバリゼーション化はひとつも成功しなかった。
そういうことが戦後、アメリカによって推進されてきたわけですが、実を言うとそれは、基本的に左翼ユダヤ人の仕業です。ユダヤ人たちというのは、個人主義化を徹底し、国家を超えた人間を作ろうとし、それを近代化の名の下に宣伝してきました。国家などは存在せず、国際社会しかなく、それを運営するのが個人でしかないという理論です。これがグローバリゼーションの名で全世界に流布し、共同体よりも先に置く。そういう人たちが実際は政治を動かしているし、ある意味で成功したといって良いでしょう。しかしそれが今、反動が広範囲に出てきているのです。
今、イギリスもヨーロッパ各国も、それがどうもおかしいと思い始めている。頻発するテロ事件で、その反動が出てきている。やはり一国一国で、政治・経済を行う、ということが必要になってきた、トランプ現象はそれの表れです。トランプと言うことは、やはりアメリカは、アメリカ一国でやるべきだという事を主張しています。ですから結局、現代のインターナショナリズムあるいはグローバリズムに対する、ナショナリズムの主張をしないといけないと考えていることなのです。グローバリズム系の人たちはナショナリズムを主張すると戦争が起きると言うけれども、これは今や逆なのです。グローバル化から戦争が起き、あたかも第三次世界大戦があるかのごとく感じているのです。
2001年の9・11テロ以後、戦争はテロで始まるという観念が生まれてしまいました。アメリカがあの後、イラク戦争をおこし、未だに関わっています。どうみてもアメリカのイスラエル・ユダヤ勢力がこれを引き起こしたとしか考えられませんが、いずれにせよ、テロリズムが盛んに現在でもおこなわれている。テロから戦争が起こることを政治家たちが言っている。しかし、なかなか戦争は起こらないのです。つまり各国民は、もう知っているのです。テロは起きても、戦争は起こさないと。戦争というのは、国民が動員されることです。もう誰も、グローバリゼーションにその戦争のモチベーションを持っていないのです。これこそが、現代の国際ユダヤ組織が間違っていることなのです。テロで戦争が起きる、宣伝すれば国民は動く。軍備に金を出し、軍事的な技術を高め、その補給関係をきちっとすれば、戦争がなくなるだろう、と金融ユダヤ人が勝手に思ってきた。こう言うとユダヤ人たちは怒るかもしれませんが、彼らはそう動かざるを得ない、金をもっているが人口の少ない彼らの弱みなのです。ユダヤ人たちはいるようでいない、いないようでいるという存在の少数派ですから、その志向は仕方がないことです。
そういう力で今までグローバリゼーションを進展させてきたのですけども、今はそうするべきではない、という事をトランプのような不動産屋が言い始めたことが興味深いのです。日本という国の経済は、韓国と違ってユダヤ資本に支配されていないのは、日本銀行の株は 55%は日本政府が持っているといった事が今生きてきているということです。そういう問題が全体的にグローバリゼーションとナショナリズムの葛藤の中で、彼らが日本がいかに変えていこうとするのか、を検討してゆきたいと思います。
彼らの志向に引きずられない日本というものを、われわれはしっかりと持たなければならないということです。それが我々にとって「歴史をたどる」「歴史をしっかり認識する」という態度をもつことです。戦後、左翼的歴史観や思想的イデオロギーにまみれてしまった日本を取り戻すことをこの日本国史学会で目指してゆきたいと考えています。『反日的歴史認識を撃つ』(展転社)という著書が、今月8日に出ます。これはハーバード大学とか有名な歴史書、朝日新聞の推薦の歴史書などに対する本格的批判の書です。なかなか読みにくいと思われるかもしれませんけども、こうした有名な書物に、強い関心を誰かが持っていないと、いずれもベストセラーですから、国民の根本的な思想がやられてしまいます。歴史認識というのは、例えばハーバード大学とか、日本だと東京大学とか京都大学が書いている書物を批判しないと、マスコミなんかはそれを批判する力もイデオロギーも持っていない。NHKを含めたマスコミは、それを広めているだけです。 NHKの歴史番組を見ていますと、全部左翼学界の言っている意見を翻案しているだけなのです。あれを見ていると、いかにも戦後史観が反日的であるかがわかります。ですから、そういうことも含めて、われわれの活動が大事になってきます。