この年代は私の研究が西洋から日本にシフトする時期である。
西洋最高峰のレオナルドやミケランジェロの研究を通じて、西洋文化の本質をつかむことが出来たと考えた後、その似た内容が日本の美術に有ったことを意識した。 『日本美術全史』を書いたあと、『天平のミケランジェロ』『運慶とバロックの巨匠たち』を上梓したが、その成果である。 また『写楽は北斎である』もまたその一環である。
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『美術にみるヨーロッパ精神』
弓立社 1993年(平成5年)220頁
西洋美術史上のさまざまの問題、例えば修復された絵画や、自画像の系譜や、ラファエッロ・ゴヤ・デューラー・ダリなど近代画家と過去の芸術家の関係を論じたものなどを収録したもの。 とくにラファエッロやダリの論考は新所見として学会でも引用されている。
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『西洋美術コレクション名作集』『同全作品集』
西洋美術史研究所 1993年(平成5年)各80頁・171頁
日本の西洋美術作品の個人コレクション約550点の調査・選別を行い、その全作品のカタログを制作したもの。 とくにその中で80点ほどを選別し、名作集として編んだ。 これらの作品の大部分は西洋でも未発表のもので、新たな調査と同定作業が必要であった。 中にはレンブラント、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ラファエッロの真作があるが、ティントレット、ルーベンス、ヴァン・ダイクなど新たな調査が必要で、このカタログ集自体、生の作品を相手にした研究の一端である。
注:ただし、このコレクション自体未だに成立していない(2004年現在)。 -
『支倉六右衛門と西欧使節』
丸善ライブラリー 1994年(平成6年)228頁
筆者によるローマ・キリナーレ宮において支倉六右衛門とその一行のフレスコ画同定及び、ボルゲーゼ宮における同人物の肖像の作者発見の美術史的研究の新たな研究によって生まれた、支倉六右衛門の西欧使節の分析の書。 西欧における当時の高い評価はこの施設の新たな検討を必要とする。 美術史の発見から新たな歴史の検討を行っている。
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『イタリア・ルネサンス2』(世界美術大全集12)
久保尋二・長尾重武との共著(「ミケランジェロ・ブオナローティ」89-180頁、「16世紀初期のフィレンツェ美術・メランコリスムの傾向」245-272頁、「素描芸術の確立」353-364頁の各項及び作品解説を担当)
小学館 1994年(平成6年)466頁
ミケランジェロのシスティナ礼拝堂天井画の修復が終了し、その調査結果に基づきこの巨匠の新たな面を掘り起こしている。 修復以後の最も新しい全体論である。 また、新たにアンドレア・デル・サルトや「メランコリスム」の研究を行い、「素描芸術」の役割の大きさも論じている。 世界に先駆けて『最後の審判』の修復後最初の写真を掲げ、その検討を行っている(28-109頁)。 -
『日本美術全史 世界から見た名作の系譜』
講談社 1995年(平成7年)398頁
長年の西洋美術の研究から新たな視点で日本美術全史を見直したもの。 とくに日本美術史で欠けていた「様式史」を導入し、奈良時代に「古典主義」をおき、平安時代に「マニエリスム」、そして鎌倉時代に「バロック」を様式として分析し、作品の世界的な価値を論じたもの。 日本で初めての「様式論」的な日本美術史であり、作家中心の絵画・彫刻史である。
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『天平のミケランジェロ 公麻呂と芸術都市・奈良』
弓立社 1995年(平成7年)236頁
西洋美術の研究方法から新たな「様式」論的な研究に基づき、奈良時代の東大寺大仏の建立の時代の作家、国中連公麻呂の作品を認定した論文を中心に、奈良時代の芸術、仏教の個性的な存在や名前の重要性を指摘し、この時代の文化の世界的な価値を論じたもの。 ここには「止利仏師」が『救世観音』の作者である、という新たな指摘もある。
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『運慶とバロックの巨匠たち 「仁王」像は運慶作にあらず』
弓立社 1997年(平成9年)254頁
鎌倉時代の美術を動勢の強いバロック様式ととらえ、運慶・湛慶・康弁・康勝・定慶らの彫刻作品を分析し、カタログを付し、さらに画家として『源頼朝』像などの肖像画を藤原信実に、「平治物語絵詞」を住吉慶忍に、また「大燈国師」を無等周位にそれぞれアトリビュートし、それぞれの作品をカタログに付して論じている。
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『ミケランジェロの世界像 システィナ礼拝堂天井画の研究』
東北大学出版会 1999年(平成11年)400頁、図版多数<
Michelangelo’s Vision of the World, The studies of Sistine Chapel ceiling paintings, Tohoku University Press, 1999, 400 p.
1985年から90年にかけて行ったシスティナ礼拝堂天井画の調査に基づく、『美術史学』に七回に渡って分載された調査報告書をまとめたもの。 500年に一度という修復が行われた天井画を足場に上って詳しく調査したもので、その技法と同時にその全体の四大元素を基本にして擬人像としてとらえたもの。 これは東北大学に提出され、文学博士論文となったものである。 -
『写楽は北斎である』
祥伝社 2000年(平成12年)404頁、図版多数
日本美術史上の謎・写楽は一体誰か、という問題に答え、写楽=北斎説を詳しく展開したもの。 山根有三教授の推薦の辞にもあるように、その類似性を明確に論じている。 これ以後、この説を批判する説は出ていない。